このほど、東海大学医学部教授・大櫛陽一らの研究グループが、 「コレステロール値が高く、高脂血症と診断された人は、高脂血症でない人に比べ脳卒中で入院した際の死亡率が約半分と低かった」との分析結果を発表。(2010年6月29日毎日新聞)
1998年から2007年までに脳卒中で入院した患者4万8000人について、高脂血症の有無と入院中の死亡率を分析した「日本脳卒中協会」のデータをもとに発表したもので、新聞各紙、TVで大きく報道された。
これまでの常識は「コレステロールや中性脂肪が増えると、動脈硬化になり、脳梗塞や心筋梗塞の危険性が高まる」というものでしたから、まったく逆のデータが示されたわけです。
日頃、低く設定された基準値をもとに、コレステロール値を下げるクスリを投与されてきたメタボやメタボ予備軍の人は、データの通りなら寿命を縮めてきたわけで、「本当ならどうしてくれる」といった怨嗟の声がきこえてきそうですが・・・。
じつは小山内氏は、とっくの昔に「コレステロール・中性脂肪は動脈硬化と無関係」と認識し、著書『生活習慣病に克つ新常識』(新潮新書 2003年刊)の中で独自の理論を展開しているのです!
小山内氏の先見の明
小山内氏は常々、コレステロールや中性脂肪を気にする人に、「あんなものは動脈硬化と関係ないよ。値が高いのは食べ過ぎと運動不足が原因だから、それを改めればいい」とアドバイスしておられました。
ですから、このたびの東海大学研究グループによる研究発表に接しても、「あたり前田のクラッカー」という、お得意の、ひと昔前のジョークが飛び出してきそうです。
氏が、長い間健康常識とされていた(いる?)「コレステロール・中性脂肪 動脈硬化犯人説」を否定したのは、解剖学的・生理学的見地からで、いわれてみれば誰もが納得する、目からウロコ的な真実です。
詳しくは、著書の『生活習慣病に克つ新常識』(新潮選書 2003年)に記されていますが、未読の方のために要約してお伝えしましょう。
「コレステロール・中性脂肪犯人説」のウソ
これまで私たちが信じ込まされてきた説は、「コレステロールや中性脂肪が増えると、血管に付着して内腔が狭くなり、血流が悪くなって血管壁が傷つき、動脈硬化が進行して、脳梗塞や心筋梗塞の危険性が高まる」というものです。
これは「日本動脈硬化学会」の見解で、医学界共通の認識でもあります。
厚生労働省のHP「生活習慣病を知ろう!」には、同様の解説が掲載されています。
小山内氏は、この「コレステロールや中性脂肪が増えると、血管にたまって内腔を狭くし、動脈硬化を招く」という前提をくつがえします。
すなわち「コレステロールや中性脂肪が血管にたまって血管を細くし、動脈硬化を招く」のではなくて、「コレステロールや中性脂肪が血管にたまったのは、傷ついた血管壁を修復するために、からだが埋めた結果」だというのです。
同書には次のように記されています。
「・・・(血管壁が)崩れて壊死巣ができると、そこを埋めるのが繊維と中性脂肪とコレステロールです。血管壁にコレステロールがたまったのは、このような一連の病変の結果であって、原因ではありません。
コレステロールはふだんから肝臓でもつくられており、格別にコレステロールをたくさん摂らなくても、病変の経過の中で、必要とあらば崩壊した部分を埋める程度のものは、からだがつくります。
たとえコレステロール値の低い人であっても、血管壁の傷を修復するために、肝臓でつくられたなけなしのコレステロールで埋めることになるに違いないのです・・・」
「なけなしのコレステロール」には思わず笑ってしまいますが、からだには、損なわれた部分を何かで修復する働きがあるようです。
梅毒や結核の場合は、カルシウムでつくろいます。
「・・・往時多かった梅毒の場合は、大動脈の中膜に起こった病変はカルシウムで埋めて修復することになっていて、・・・組織が崩壊したあとにカルシウムの沈着がみられます。だからといって、石灰沈着をカルシウムが原因で起こったと考えるわけがありません」。
つまり、コレステロールの沈着は、傷を修復した結果であり、「コレステロール犯人説」は原因と結果を取り違えた“珍説”ということになります。
小山内氏は、「中性脂肪・コレステロール犯人説」を、事件が起きたときに、その場にいた者を犯人に仕立て上げたようなものだといって笑っていました。
食べ過ぎ・運動不足の解消で改善
小山内氏は「コレステロール・中性脂肪の増加が動脈硬化を招くことはなく、両者に直接的な関係はない」ときっぱり否定しつつ、次のようにアドバイスします。
「コレステロールや中性脂肪は、運動不足や食べすぎが原因で、代謝が悪くなることによってたまる。その値が少々高くなったからといって、血中のコレステロール等が血管壁にたまるわけではないから、それほど心配する必要はない。
ただ、コレステロール等が増えるような生活では、肥満や高血圧を招き、血液循環も悪くなって、結果的に動脈硬化に結びつくことになるので、ひとつの目安として改善する必要がある」と。
改善のためには、空腹時に活動して、蓄えた脂肪をブドウ糖にかえてエネルギーとして使うような、代謝の活性化をはかることをすすめます。
要は食べ過ぎないこと、ほどほどの運動を欠かさないことで、コレステロール、中性脂肪の問題は解決ということです。
老化による「動脈硬化」は病気ではない
それにしても、なぜ「コレステロール等の増加が動脈硬化を招く」といった誤解が生じることになったのでしょうか。
小山内氏は、そもそも「動脈硬化」という現象の捉え方に問題があるのではないか。
ひとくちに「動脈硬化」といっても、病的な「動脈硬化症」と、単なる老化に伴う自然な生理現象である「動脈硬化」とは異なるのに、両者を区別して使い分けていないことが混乱を招いているのではないか、と指摘します。
両者の違いを整理します。
年をとって血管が硬くなるのは自然な生理現象で、病気ではありません。
誰でも年をとると、結合組織が硬くなり、皮膚が硬くなったり、関節が硬くなったりします。関節であれば、結合組織の硬化収縮の結果、五〇肩といった運動痛が現れるものの、ある期間が過ぎると解消します。
動脈の場合も、結合組織の硬化収縮といったかたちで血管壁が硬化するのは、誰にでも起きる生理現象です。
このような変化は多少の差はあるにしても、全身の動脈に等しく起こってくるもので、それだけでは脳卒中や循環器系の疾患に結びつくものではありません。
コレステロールがたまるわけでもありません。
これとは別に、動脈壁に起こってくる病的な変化が「動脈硬化症(アテローム硬化症)」です。
動脈壁が粥状(アテローム)に崩れて、増殖し、動脈の内壁の下に良性の腫瘍を形成します。これが動脈内腔を狭くする原因となり、内膜下で成長して一定の大きさに達すれば、その一部が崩壊してくる場合があります。
崩壊が内膜に波及すると、血管壁が傷つき、出血した血液が固まって血栓を形成するようになります。さらにその血栓が遊離すれば、動脈は末梢ほど細くなるので、血栓がどこかに引っかかって血管をつまらせて、梗塞ということになります。
この壊死巣を埋めるのが、前述のとおり、繊維と中性脂肪とコレステロールです。
これが病的な「動脈硬化症」です。命にも関わります。
しかし、自然な生理現象としての「動脈硬化」は病気ではありませんから、心配ありません。
年をとって「動脈硬化」になるからと、それほどの肥満でもないのに、コレステロールや中性脂肪を減らすようなクスリを飲んだり、 食事制限するなど、論外です。それどころか今回の分析結果のように、寿命を縮める結果になりかねません。
低すぎる基準値が寿命を縮める!
このたびの「コレステロール・中性脂肪は高い方が長生きする!」研究発表は、衝撃的かつ有意義でした。従来の厳しすぎる基準値に疑問を感じていた人は、快哉を叫んだにちがいありません。
大櫛教授らの調査によると、日本の血圧・脂質・中性脂肪などの基準値は、世界基準と比べても厳しすぎるようです。
たとえば日本では、LDLコレステロール値が120を超えると注意、140を超えると受診を促されるが、欧米では190以上を高いとしています。
ところが実際は、日本人の場合、女性はLDLコレステロール値が120を、男性は100を切ると、死亡率が急に上がる! 逆に140を超えたほうが死亡率が下がり、病気になりにくく、治りやすいというデータが示されています。
また、欧米で実施された大規模疫学研究では、総コレステロール値が240〜280mgの範囲の人がもっとも長生きであり、それ以上高くてもそれほど変わらないと発表されています。
これらの研究を日本人で確かめようと、富山大学でも浜崎智仁・大和漢医薬学総合研究所教授らの研究グループが、「高脂血症と寿命に関する研究」を進めてきました。
2008/3/28には、浜崎・大櫛の両教授が、霞ヶ関の厚生労働省で共同記者会見を開き、「血清中の総コレステロール値やLDLコレステロール値が低いと、死亡率が高くなる」との調査結果を発表しています。
浜崎教授は国内外の臨床研究や疫学調査をもとに「悪玉とよばれるLDLコレステロールは低下させなくてもよい」と報告。
大櫛教授は「遺伝病である家族性高脂血症以外の人は、血中の中性脂肪量は、食事と生体のエネルギー消費にあわせて適切に調整されている。したがって(クスリで)中性脂肪を下げる必要はない」との報告を発表。
このときも、従来の説をくつがえす報告が注目を集めました。
これらの研究調査をもとに、脂質栄養関係の医・薬・保健学者10人でなる委員会(大櫛陽一東海大医学部教授ら)が、20008/4/7付けで、厚生労働省のHPに掲載の「生活習慣病を知ろう!」には間違った内容が含まれているので、修正して欲しいという「要請書」が、当時の厚生労働大臣であった舛添要一氏に提出されています。
要請書には、
・ コレステロールを下げようと食事の努力をしても、数値は容易には下がらない。その食生活によってかえって死亡率が高まる。
・ コレステロールが高くても、心臓病死は増えない。
・ LDLコレステロールの高いほうがむしろ長生きする。
・ コレステロールを薬で下げる必要はないし、下げすぎるとかえって死亡率が上がる。
・ 現在は植物油を過剰に摂取しすぎている。むしろ植物油は摂りすぎないように指導するのがいい。
などとあります。
いずれも私たちの健康に直結することばかり。すぐにも真偽のほどが知りたいところですが、未だに返答はなく、厚生労働省のHPも変わっていないとのことです。
厚生労働省の見解をただす
小山内理論によれば、「コレステロールや中性脂肪の値は、肥満の目安と考えて、高ければ、食べ過ぎと運動不足に注意」で済みます。クスリは不要です。
しかし、自助努力ができにくい人、健診で要注意とされたり、受診をすすめられた人たちは、データに左右されてしまいがちです。
低く設定された基準値をもとに、コレステロールや中性脂肪を下げるクスリを投与され、かえって寿命を縮めるようなことになったら、何のための治療かわかりません。
大櫛教授は、「日本は厳しすぎる基準によって、多額の費用を使い、むしろ健康を害する治療をしているのではないか」と警鐘を鳴らします。
うがった見方をすれば、大量の薬を使って製薬会社のみを利することになっている恐れもあります。コレステロールの薬による治療を止めるだけで、ある試算によれば毎年9000億円もの医療費の節約ができるそうです。
国民の健康を守る立場の厚生労働省は、要請書をはじめとする見解に対し、データを正しく検証し、専門家の意見を聞いて、態度を明確にすべきではないでしょうか。
◎ この文章をまとめるにあたって、富山大学高脂血症研究、東海大学大櫛陽一教授のHPを参考にさせていただきました。詳しい活動内容については、各HPをご参照ください。
(文責 高木亜由子)
2010年11月5日  

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