湯治場で健康づくり合宿に参加してみた!

快適な地熱のオンドル部屋

保健師の中西ヒロ子さんは、年に1回、秋田県八幡平にある後生掛ごしょがけ温泉で健康づくり合宿を主宰する。 当地の地熱を利用したオンドル式の湯治場で、小山内体操を指導し、温泉で冷水浴を行う。 今年は雪深い2月23日から3月7日までの13日間、日本全国から兄弟、知人、友人が参加して行われた。
宿はここ1軒だけ。
天空に近い別天地だ。

私も2泊3日で参加した。以前、アメリカ・ジョージア州から海を越えて参加した女性を取材したことがあり、今回は2回目である。
前回は6月で、緑したたる山々に囲まれていた温泉は、すっぽりと深い雪に包まれていた。
宿舎は2メートル近くの雪の壁に囲まれているが、湯治場は地熱であたためられ、Tシャツ1枚で過ごせてしまう。ゴロンと横になれば、ジワジワと地熱がからだにしみわたり、薬効もありそうだ。 体操を行うには、これ以上ない環境である。
ここで参加者は、朝晩、中西さん指導のもと、柔軟体操、そして小山内体操を行い、チェックをしてもらう。
小山内体操は1人でやっていると、いつの間にかフオームが崩れたり、間のとり方が短くなったりして、本来のかたちからズレてしまう。小山内体操は、簡単なようだけれど、ポイントをきっちり抑さえないと効果は半減するので、時どきチェックをして確認することが必要だ。
私も、体操歴は長いのだけれど、このたびチェックをうけて、いくつかダメ出しをされた。やっぱりきてよかった。

小山内体操をチェック!

朝7時体操開始。
オンドルの大部屋は、真ん中に通路をはさみ、両側にウナギの寝床式に畳敷きの床が続く。 そこに各々ゴロリと横になる。
誰もが参加自由。中西さんが逗留する期間に訪れる湯治客もいるようだ。
一般の湯治客も飛び入り自由で、今日は某巨匠カメラマンと助手さんが参加している。
まずは柔軟体操から。中西さんが大きな声で足指から腕、肩、首、ふだん動かさないような部位を丁寧にほぐすように指示する。
イテテ・・・巨匠カメラマンが悲鳴を上げると、中西さんはすかさず近寄って励まし、サポートする。
私も懸命についていく。
地熱の畳があたたかいので、たちまち汗ビショッリだ。
1時間ほどでからだがほぐれたら、2人一組で、1人なら奥の棚に足を固定して、小山内体操を行う。
私は、背そらしの体操が苦手だ。
チェックしてもらうと、パッと背そらしをして、うつぶせに倒れたら、顔を横にむけるところ、まっすぐにおろしていた。だから顔が苦しかった。注意された通り、顔を横向きにすると、ぐんと楽になる。両手もパッと上がるようになった。
間隔も短かすぎた。
背そらしは、パッと背をそらしてうつぶせに脱力したら、2呼吸から3呼吸おく。
この間(ま)が大切だ。
京都からの湯治客、上村さん(87)。81歳の時に湯治に来ていて「体操」に出会い、すっかり気に入って、以来毎年この時期に合流する。足を押さえる中西さんも感心する、みごとなフォームだ。
背をそらしたときは、古い体液がパッと押し出され、緩めたときは、栄養分、酸素を含んだ体液がジワジワ戻ってくる。少し時間がかかる。そこで間をおくことによって、うまく背骨に栄養が届けられ、しっかりした背骨がつくられる。
背のばしも同様だ。
小山内体操がよく効くのは、時間のバランスが工夫されて、効率よく骨に栄養が補給されるから。これが、間隔をおかずにパッパッと立て続けに行うと、1回しかやらないのと同じことになってしまう。
小山内先生によく注意されたのに、いつのまにかせっかちになっていた。
チェック後、今まで10分くらいで背そらし50回、背のばし30回を終えていたのが、15分はかかるようになった。効きも大分違うのでは。
毎年参加しているという妹の小島洋子さん(65)は、
「年に1度のチェックが大きい。体操は毎日励行しているが、いつの間にか甘くなっていたりする。ここで修正して、気合を入れてもらって、次の1年を健康に過ごす」という。
小山内式人間ドッグのようなものである。

技を身につけて健康自立する

中西さんは、12人姉妹兄弟という大家族で育った。中西さんは10番目。兄弟姉妹のうちこの5年間で3人が亡くなり、あとは健在。それぞれ子どもが成長して、老後を迎えた今、姉妹兄弟は頻繁に行き来して、親密な関係を築いている。
この健康づくり合宿は、中西さんが企画し、年1回、全国から兄弟姉妹、その知人、友人が集まって、
軽々と背そらしをする八代江さん(81)。
小山内体操を行い、互いの健康を確認する場ともなっている。今年で15年になるという。
当初は、中西さんはまだ現役の保健師で、参加者は役場で体操を指導していた住民たちだった。中西さんがたまたま逗留したこの湯治場で、自身の椎間板ヘルニアを治したのをきっかけに、腰痛者の住民たちに頼まれて連れてくるようになったのである。
それから年に1度、中西さんが当地に保養に訪れるたびに参加者が増えて、そのうち兄弟姉妹が参加するようになり、その知人友人にも広がって、今のような大所帯になり、恒例の行事となった。
参加者は、ともに寝起きして、地元の食材を用いて自炊し、温泉で「水かぶり」をして、朝晩体操を行う。規則正しい湯治生活をおくることによって、 食事のとりかたなど、よい生活習慣が身につくことにもなる。しかし合宿の主目的は、あくまでも健康づくりである。
地元の食材を用いて調理するのも楽しい。

中西さんは語る。
「この体操を行うことによって、腰痛にせよ、肩こりにせよ、確実によくなるということが実感できる。ここで体操をしっかり身につけて、 自分のからだは自分で治す、自分で守るということを覚えてほしい」と。
だから中西さんの指導は厳しい。
兄弟の輪の中で、ゴッドマザー的な存在の長女の国井八代江さん(81)は、失礼ながら巨体を軽々と持ち上げて背そらしをする。
「ヒロ子に足を押さえてもらって、体操をやるようになってから5、6年になる。からだが軽くなり、 畑仕事をしても回復が違う。先ず寝込んだりしない。ここにきたら容赦なく強制的にやられるから、よく効く」という。
三女の佐藤ユキエさん(79)は病気知らずだ。
「ここで小山内体操を覚えてから自宅でも毎日行い、そのあとは散歩を30分。もう20年以上医者にかかっていない。年に1回、兄弟姉妹が集まって、医療や食生活の情報交換をするのも楽しみ」と健康自慢、兄弟自慢。
妹の小島さん(前出)は、美容院を経営しているので、休むことができない。合宿だけは予防点検と思って参加し、 チェックしているおかげで、10年来休みなし。「湯たんぽを2つ入れるくらいの冷え性が、ここ何年か足を出して寝るくらい」とすこぶる元気だ。
体操が終わった後は、三々五々集まって団らんの輪が広がる。
もう15年、毎年参加しているという二女の唐沢ミツヨさん(80)は、
「保存食やら自慢の味をみんなに食べさせてやろうと、1年がかりで作って持参する。合宿は生きがい」となっている。
兄弟が多いと、年をとってからこんなに幸せな関係が築けるものか、うらやましい限りだ。80を過ぎた姉妹たちが、生き生きと目を輝かせ、子ども時代に戻ったかのようにおしゃべりに花を咲かせているさまは、昭和の家族像を目にしているようだった。

健康づくり保養施設のすすめ

今回、男性陣でひとり参加された3男の関根金正さん(69)は、健康づくり合宿の意義を次のように語る。
「昨年はじめて参加し、メンテナンス効果が抜群だった。少しやせ、背中が丸くなりかけていたのが、あの体操で背筋がのびた。リフレッシュ効果も大きい。ここでは合宿生活に身をゆだねて、何の心配もない。時間の感覚がなくなる。この宿1件だけで、周りは何もない。自分のからだのことだけ考えていればいい、至福の時・・・」。
関根さんは、60歳で退職したのを機に、自分のメンテナンスに目を向けた。これまでイヤというほど仕事をしてきて、くたびれたからだを回復させるには、この健康づくり合宿が最適だったという。昨年は1週間、今年は2週間全行程逗留の予定だ。
関根さんの感想を聞いて、ドイツのクナイプ療法を思い出した。
ドイツには温泉地など各地に保養施設があり、そこで温冷浴やウオーキング、食生活の改善などを指導する。予防を目的に健康づくりをシステム化したもので、クナイプ療法と呼ばれ、小山内式とよく似ている。 ドイツでは保養制度が発達していて、国民は4年に1度3週間の保養を行うことが認められているため、これを利用してクナイプ療法を体験する人が多いという。
クナイプ療法には健康保険も適用され、滞在費と医療費のほとんどが保険で支払われる。
かんじき(雪靴)をはいて霧氷ウォッチング。
長い合宿中には句会などの催しも行われる。

日本では今、働き過ぎ改革が問題になっているが、からだを壊すより前に、こうした健康づくりのための制度を整えるほうが求められると思う。
治療のための施設ではなく、予防・健康づくりのための保養施設。
幸い日本には、温泉が各地にあり、保養に使えそうな簡保の宿まである。うまく利用してこのような施設ができないものだろうか。
小山内健康づくりは、理論的に体系化されているので、中西さんのような指導者がいれば、実現可能だと思う。

(本稿は今年2月に後生掛温泉で行われた合宿を取材し、まとめたものです。
文責 高木亜由子)
2017年10月31日  

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