● 花束で埋もれた日

「中西さんがいるから3人目を産む」とまで母親たちに言わしめた、他に類を見ない親身な母子支援活動。
はたまた中高年層の腰痛・肩こり、不定愁訴を改善するために、早朝出勤して小山内体操を実践するなど、とても公務員とは思えないエピソードで彩られた中西保健師。
退職の日には、何10人もの住民が役場につめかけ、「中西さんありがとう」の声とともに小さなからだは花束で埋めつくされたとか。
その影響力の大きさから、医療関係者と軋轢を生じたことさえあるといわれます。
マスコミでも話題になった日の出町の保健活動について、今、自由な立場から率直に語っていただきましょう。
(日の出町における中西さんたちの保健活動は、『今すぐできる体質改善の新常識』<小山内博・高木亜由子著 2004年新潮新書刊>に詳しく記されています。)
退職時に住民代表から贈られたアルバムより抜粋。
多くの人の感謝の言葉と思い出の写真で
コラージュされた1冊は、
中西さんの宝物だ。

避難所で。
背骨のしゃんとした高齢者に感動

お疲れさまでした。 退職後は、大震災の影響を受けて
しばらく避難所で保健活動をされていたとか。
はい。郷里が福島で、退職後は実家の近くで農業をやりながら、地域に根ざした健康づくりをと考えていたのですが、 原発事故といろいろな事情が重なって福島は断念。そうこうするうちに双葉町の第2避難所のほうから手伝いを頼まれて、保健師として7月〜9月いっぱいお手伝いしました。
避難所では、どういう活動をされたのですか。
被災された方の心とからだの健康を維持・増進をすすめる仕事に違いはありません。私が出向いたのは7月のはじめで、もう皆さん大分落ち着きを取り戻されていました。
避難所となった大きなホテルには、700人を超える人々が避難生活をされていました。すでに全国から医師や理学療法士、保健師等の医療スタッフが集結。各部屋を見回り、行き届いた健康管理が行なわれていました。
私は、スタッフがスムースに動けるよう、司令塔のような役割を受け持ちました。
避難している方が孤立しないよう、ストレスをためないよう、保健室をサロン風にして、気軽に立ち寄って話ができるようにしてみたり、健康体操を毎日実施したりもしました。
この活動を通じて印象に残ったことは何でしょうか。
誤解を恐れずに言えば、人間のからだはそう簡単には壊れないものだということ。
あれほどの災害に遭ったにもかかわらず、とくに高齢者がしゃんとしていることに感銘を受けました。とりわけ80代、90代の戦争を経験している方たちは、「戦災とは比べものにならない。全国から支援してもらってありがたい」と感謝の気持ちをもって、 前向きでした。その人たちは背骨がしゃんとして、しっかりしたからだづくりができているのですね。
小山内先生が、昔、公害で知られた足尾銅山の子供を例に引いて、木が枯れて山がはげ山になっても喘息の子供などいなかった、人間のからだはそう簡単には壊れないという話をされていたのを思い出しました。
しっかりしたからだが精神を支えるともいえますね。
はい。健康であれば、人は生きていくようにできていますから、立ち直れると思います。

保健師こそ健康づくりの相談役。
だからこそ支援のための技術を磨く

保健師とは、健康を保つと書きますが、これまで中西さんは何を大切に考えて保健師の仕事をされてきましたか。
いつも「自分の健康、生命に関わることを、他人任せにしない住民になってもらいたい」と考えて行動してきました。食にせよ、医療にせよ、子育てにせよ、あらゆる局面においてですね。
まず「自分の健康は自分でつくるしかない」ということに気づいてもらう。次にやりたいことができるしっかりしたからだをつくるために、どういう健康づくりがふさわしいか、一緒に考えていく。その相談相手として保健師がいるわけです。
そのためには、私たちの存在価値である保健指導技術には常に磨きをかけておかなければなりませんでした。
その中で小山内氏と出会ったことの意味は。
先生との出会いは、それまでの価値観をくつがえすほど大きなものでした。
講演で話される「朝食は控える」や「かわいい子には冷水浴」などの小山内理論は、新鮮で、目からウロコでした。
あらためて学生時代の教科書を読み直し、小山内先生の研究や理論を勉強していくと、どれも生理学的に理にかなっていることばかりでした。この先生の理論を学ぶ過程は、それはそれは楽しかったですね。
私たちは小山内先生の提唱する健康づくりを取り入れ、それらは最強の保健指導技術となりました。
小山内氏はどのようにアドバイスされましたか。
先生は私たち専門職の者にはかなり厳しくて、ああしろこうしろとは言われません。
見守るという感じで、いつもニンマリという表情で、「チエがないなー」「国家試験に合格したということは、単に人前に立ってもいいという資格をもらったにすぎない」なんて叱咤激励(?)されるのですから。
わからないことがあったら、そこを勉強するように仕向けられるのでした。おかげで 研究の仕方というかコツのようなことも学びました。

早朝出勤して体操を実践。
改善効果の大きさに驚きの声

小山内式の中で、もっとも反響の大きかった健康づくりは何ですか。
何といっても「背そらし・背のばしの体操」でしょう。
私は毎朝早朝出勤して、腰痛の自覚症状で困っている人たちに役場の保健センターに集まってもらい、体操を実践してきました。
おどろいたことに、第1回目から、めざましい変化(好転)がみられました。
歩けないほどひどい腰痛の60代女性は、1回目の体操から少し歩けるようになり、2回目3回目と回を重ねるごとに歩数が伸びて、3カ月後にはほぼ普通に歩けるまでに回復しました。 その方の腰痛は術後ますます悪化して、外出もままならず、失礼ながらはじめて連れてこられたときは80歳の老婆の様でした。それが71歳になられた今も、元気で働いています。
腰痛・肩こりのほかにも、膝痛、股関節痛、医師やクスリでは治らない様ざまな不定愁訴が改善されたとの声があがりました。
産後の三叉神経麻痺症状も完治、止まらなかった「しゃっくり」が止まったなど、思いもかけない改善効果が報告され、私たちにとっても、毎日が発見の連続でした。
参加者は増えるいっぽうで、その結果は医療費の抑制にしっかりと反映されています。
それはぜひ声を大にして、多くの自治体や
個人にもアピールしたいですね。
今は、日本中の誰もが健康になりたいと渇望している時代です。
1日24時間のうち、たった15分でできる「背そらし・背のばしの体操」は、誰でもできて、手間ひまかからない、いつからはじめてもOKの、ほんとうに魔法のような健康づくり術です。
体操を継続して実践した人たちの記録を読むと、血圧・糖尿病改善、うつ・ストレスの解消、便秘解消なども見られ、この体操のはかりしれない力を感じさせます。
おそらく生活習慣病のほとんどを改善させることができる手段といっても過言ではないでしょう。
日の出町では、役場でスタートした体操が、今もその効用を知る住民グループにより続けられています。
(2009年4月掲載 体操グループ「ときめき」の元気力 参照)
冷水浴による子供のアレルギー改善も、大きな注目を集めましたね。
先生の講演を聞いて、実践したお母さん方から改善の報告があったんですよ。それから冷水浴の効用が認められ、広がり始め、私たちも取り入れたのです。
水をかけて育てた子供は、アレルギーを予防できるばかりか、風邪もひきにくく、丈夫に育つことが、実際に多くのお母さんがたから報告されています。
しかし、子供に冷水浴は刺激が過ぎるとの声があがり、圧力がかかりました。
今は、お母さんがたの口コミで脈々と伝えられているようです。
(2008年11月掲載『「水かけっ子」はアレルギー知らず』参照)
保健師としてやりとげたこと。
人間の生命に対する考え方や健康観は、その時代の政治や経済によって影響を受けます。今、医療先進国の日本では、どこか悪くなったらすぐ病院へという考え方が一般的です。
しかし、からだの自然を守り、死ぬまで健康に生きたいと願うのであれば、しっかりしたからだづくりが求められます。
私たちが今、何気なく過ごしている日常生活のあれこれが、果たして自分の心やからだにとっていいことなのかどうか、自分の頭で考えられる健康学習を、住民の皆さんとともに展開してきたつもりです。
退職の日、ある住民の方から
「子育て、親の介護、夫の病気・・・わが家を襲う波は次から次へとやってきました。その都度中西さんにお世話になりました。でも、おかげで何でも乗り越えられる強さが身につきました」という言葉が寄せられました。
それを聞いて、“ああ、やってきてよかったな”と晴れ晴れと自分の仕事を振り返ることができました。
これからどういう道を歩まれるのですか。
つくばみらい市に畑つきの小さな家を手に入れて、

愛犬かいと暮らす幸せ!
あこがれだった農業をやりながら、今までの仕事を総括したいと思っています。
予防医学と医療費の削減についても、仲間の研究者と進めていきたい。
とにかく医療が今のままでは国がたいへんなことになりますから、少しでも私の体験が役に立つならと考えています。

中西さんには、今後とも自由な立場からレポートをお願いしたいと思っています。
次回は、日の出町で中西さんとともに保健師として活躍し、のち研究の道に進んだ那須野順子さんに「予防医学と健康づくり」についての現状と展望を報告していただきます。 お楽しみに!

(文責 高木亜由子)
2011年12月30日  

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   小山内博の健康づくり全般に関するご意見も承ります。
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 更新日   2012年01月04日